Cat Schroedinger の 部屋
 
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2012年9月7日を表示

「癒しロボット」

「癒しロボット」

 その老博士は大学の研究所を引退してから、名誉教授となり、自宅の研究室でロボットを作っていました。大企業で活躍している教え子や、部下であった大学の教授や学生達もしょっちゅう出入りするので、材料や部品の調達はいつも最新式の物が入手できました。

 奥さんを亡くしてから独りぼっちの博士は、そのロボットを奥さんの若い頃そっくりに作りました。弟子達や、学生達にも人気のあった奥さんを、学生の友達の美大生が造形を担当し、その顔は完璧になり、超小型モーターを多用し表情までもが、まるで生きているようです。

 始めは座っているだけでいろんな言葉に反応し、受け答えする程度でしたが、音声をほぼ完全に理解し、人工知能と、ネット検索、博士の大型コンピューターのデーターベースなどから、素晴らしい会話が出来るようになっていきました。

 助教授時代に博士の家に何度も来ていた今の教授は、奥さんに公私にわたり御世話になったので、当時の奥さんの話し方や、そぶりをインプットし、博士の昔話から奥さんとの出会いから、喧嘩のことまでも出来る限りインプットしたのでした。

 博士が昔話をしても、いろんな思い出を追加するように話したり、沢山の写真から当時の事を、博士以上に詳細に話すことが出来ます。完璧な会話が出来るそのロボットのおかげで、博士はとても癒されました。

 そのうちそのロボットを動けるようにと、車が付けられましたが、企業に勤める教え子からの協力で、すぐに二足歩行になりました。家事が苦手な博士のために、電気器具はすべてロボットに音声で命じれば、ロボットからの信号で操作されます。電池が切れそうになると、

 「ちょっと疲れたわ」と言って、自分で充電用の椅子に座ります。
 
 ロボットは料理、洗濯、掃除、お留守番と何でも出来るようになり、何よりも博士と素晴らしい会話が出来るので博士はとても幸せでした。



 ところがその頃博士は少しずつアルツハイマーを発症していたのです。しかし博士の家を訪問する誰も気がつきませんでした。あまりにもロボットが優秀で、生活の状態が完璧だったのが発見を遅らせていたのです。実は博士はそのロボットを本当の奥さんのように思うようになっていたのでした。


 博士から相談があると電話が来た教授は、いそいそとお宅に伺いました。博士は声を潜め、深刻な顔つきで話し出しました。

 「実は家内と離婚したいくらいなんだが・・・昔は従順だったのに、最近は口うるさくて研究も進まないんだよ!もう少し私の仕事に理解をしてくれると良いのだが、本当に疲れてしまうんだよ。」

 「全く気が休まる時がないよ!どうしたらいいのかね~~」

 「君から何とか言ってくれないかね~~」

 弟子達には完璧に見えた博士は、家庭では子供のような性格で、その奥さんは弟子達の前では完璧な良妻賢母に見えましたが、とても口うるさい人だったのです。

 教授は助教授時代、アリバイ作りに使われたりしたことを思い出しました。博士が家に帰りたがらないで、何日も大学に泊まり込んで研究する熱心さを尊敬していましたが、今そのわけが解った気がしました。

 昔から素晴らしい仕事をした天才の奥さんは、悪妻が多かったそうです。(笑)



2012年9月7日(金)00:41 | トラックバック(0) | コメント(0) | 仕事の話 | 管理


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