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2011年1月26日を表示

武士の家計簿

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新
(新潮新書) [新書]
磯田 道史 (著)

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東京・九段の靖国神社に立つ「大村益次郎」像の建立に力があったのは、加賀前田家の「猪山成之(しげゆき)」という一介のソロバン侍だった。

 幕末の天才軍略家と一藩の会計係の間に、どのような接点があったのか。「百姓」から軍略の才一つで新政府の兵部大輔に上りつめた大村と、ソロバン一つで下級武士から150石取りの上士にまで出世した成之の出会いは、いかにも明治維新を象徴する出来事だが、著者は偶然発見した「金沢藩猪山家文書」から、その背景をみごとに読み解いている。

猪山家は代々、金沢藩の経理業務にたずさわる「御算用家」だった。能力がなくても先祖の威光で身分と報禄を保証される直参の上士と違い、「およそ武士からぬ技術」のソロバンで奉公する猪山家は陪臣身分で報禄も低かった。

 5代目市進が前田家の御算用者に採用されて直参となるが、それでも報禄は「切米40俵」に過ぎなかった。しかし、120万石の大藩ともなると、武士のドンブリ勘定で経営できるものではない。猪山家が歴代かけて磨きあげた「筆算」技術は藩経営の中核に地歩を占めていく。

本書のタイトル「武士の家計簿」とは、6代綏之(やすゆき)から9代成之(しげゆき)までの4代にわたる出納帳のことである。

 日常の収支から冠婚葬祭の費用までを詳細に記録したものだが、ただの家計の書ではない。猪山家がそれと知らずに残したこの記録は、農工商の上に立つ武士の貧困と、能力が身分を凌駕していった幕末の実相を鮮明に見せてくれる。220ページ足らずとはいえ、壮大な歴史書である。(伊藤延司)


内容(「BOOK」データベースより)
「金沢藩士猪山家文書」という武家文書に、精巧な「家計簿」が例を見ない完全な姿で遺されていた。

 国史研究史上、初めての発見と言ってよい。タイム・カプセルの蓋を開けてみれば、金融破綻、地価下落、リストラ、教育問題…など、猪山家は現代の我々が直面する問題を全て経験ずみだった!活き活きと復元された武士の暮らしを通じて、江戸時代に対する通念が覆され、全く違った「日本の近代」が見えてくる。


著者からのコメント 2003/04/02
 東京・神田の古書店で、加賀藩士がつけた「家計簿」が発見された。饅頭ひとつ買っても記録した詳細なものである。天保13年(1842)から明治12年(1879)年まで37年分が残されており、金沢城下の武士の暮らしぶりが手にとるようにわかる。

 家計簿をつけたのは加賀藩御算用者(おさんようもの)・猪山直之。藩の経理係であり、将軍家から前田家輿入れした姫様のそろばん役を務めていた。

 仕事が経理であったため、自分の家でも緻密に家計簿をつけていたらしい。彼は、年収の2倍をこえる借金を抱え、年18%の高利に苦しんでいた。妻の実家に援助してもらい、お小遣いも現在の貨幣価値で5840円におさえられていた。しかし、天保13年に一念発起して家中の家財道具を売り払い、債権者と交渉して借金の整理に成功。「二度と借金地獄に落ちるまい」と、それ以後、家計簿をつけはじめた。

 その後、猪山家は家運が急上昇。江戸時代の武士社会では、猪山家のようなソロバン役人は低く見られていたが、維新の動乱期になると、会計技術者は兵站係として重宝された。

 直之の子、猪山成之は明治政府の軍事指揮官・大村益次郎にヘッド・ハンティングされて兵部省入りし、のちに海軍主計となって東京に単身赴任する。その年収は現代の3600万円にもなった。一方、金沢に残された成之の従兄弟たちは政府に出仕できず、年収は150万円。明治士族の厳しい現実である。

 本書では、なるべく、猪山家の人々の「声」を掲載することにした。幕末明治から大正にかけて、激動期を生きた家族の肖像写真をそのまま見て頂きたいと思ったからである。
 あなたは猪山家の物語に何を想われるであろうか。

感想と紹介
 8年ほど前に読んだ本です。写真は古い本なので、現在売られている本とは帯の色が違います。今回映画化され映画の方はまだ観ていません。

 映画とは違って、歴史の資料的な本です。当時大変興味深く読めました。

 この手の本を読むときに一番難しいのは、一両が一体現代の幾らくらいになるかです。一口に江戸時代といっても300年もあるのですから、江戸初期と幕末では次第にインフレとなっていったために一両そのものの価値も全く違います。まして現代のお金に換算することは不可能なのです。

 著者はそれを百も承知で、読者にわかりやすくするように米価から換算したり、大工の手間賃などから計算したりしています。米価だと一両は5.5万円ですが、手間賃などから換算すると30万円くらいとなります。
 計算方法によっては猪山家は結構な年収がありました。しかし年収の2倍以上の借金があり、高利の金利に悩んでいました。当時の金利は18%ととてつもなく高い金利でした。

 現代の我々と同じような問題を抱えていたのです。猪山家の財政再建は実に見事でした。内容は本書に譲るとして、興味深いのは自分たちは倹約しても、武士としてのつき合い、武士としての経費は全く減らさなかったことです。葬儀、お寺への寄付、親戚つき合いなど莫大な費用がかかっています。

 ソロバンだけで出世しようと、子供にも厳しい教育をしています。

 物語のようにおもしろい本ではありませんが、武士という物が実際にはどうであったかを、如実に物語っているすばらしい本です。



2011年1月26日(水)22:30 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書籍 (短歌、漢詩) | 管理


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