Cat Schroedinger の 部屋
 
                        雑談の部屋です。
 



2008年12月17日を表示

東京に暮らす 1928~1936

「東京に暮らす 1928~1936」
 著者名:キャサリン・サンソム
 出版社:岩波文庫

 著者は、外交官夫人として、昭和初期の東京に暮らしたイギリス人。見たこと感じたことが、女性らしい優しい気持ちで、いきいきと綴られています。女性だけに政治的な見方は全くなく、ごく普通の東京の日常をイギリス人の目から見て書いています。

 この手の書物は、極端に日本贔屓だったり、反対に極端に批判的だったりすることが多いのですが、とてもナチュラルな目で見ています。それ以上に感心するのは、作者は日本語も話せるかなりの日本通ですが、知識をひけらかすところは全くなくて、日本人なら説明できるようなことでも、これ以上は不明ですと素直に書いています。

 面白い話が沢山出てきます。この面白さは少しイギリスのことを知っていると倍増します。
 樹木と庭師という一節ですが、最近ガーデニングが流行していますが、イギリスでは日当たりが悪く、日本に比べ木の種類も、花の種類も自然ではなかなか大変のです。作者は「木が好きな人なら必ず日本が好きになります。しかしその木は庭師の存在で更に素晴らしい物になっていると」と書いています。

 「ここに木を植えたいと言っても、庭師は頑としてあそこに植えるべきだと言って、絶対譲りません。しかし後で家の中から見るとやっぱり庭師の言ったとおりだったのです。」

 「ある時庭師が、変わった桜の木を持ってきて植えました。植えた木が花を付けないばかりか、ひどく惨めに見えたとき、我々は秘かに喜び、彼がどんな言い訳をするか楽しみにしていました。所がその庭師は相変わらず得意そうな顔をしていました。案の定その木は立派な木になったのでした。」

 さらに「私たちは、自分たちが庭や木の所有者であると思ってしまうことが時々ありますが、間違いです。本当の所有者はあくまでも庭師です。」

 これには本当に笑えました。当時の日本にはいわゆる職人が素晴らしい働きをしていました。
 
 冷静な文章に、日本の靴について書いています。日本人の真似が上手なことは世界一だと認めています。

 「運がよいと日本でも手頃な値段で、良い靴を作って貰えることがあります。」
 「日本で作って、数年はいたワニ皮の靴を見たロンドンのある靴作りの名人が、その靴を見て一体どこで作ったかと尋ねました。」
 その靴はあらゆる面で完璧でした。所が二度目に注文したらもう駄目でした。
 こんな所にも職人気質に感心しています。

 日本通の多くの外人は、日本の社会はとても良い職人の仕事をあまり大事にしていないことを不思議がります。
 確かに日本では外国に比べて料理人も、それほど高い社会的地位を得ていません。それは外国に行くと判ります。外国の一般家庭では、料理の技術は実にお粗末です。日本人は器用なので、料理でも、着物の仕立てでも、障子の張り替えなどでもかなりのレベルまで家庭の主婦が出来ました。

 そんなところに作者も感心しています。老人がとても大事にされている事にも感心しています。我々が失ってしまった、戦前の日本の良かった部分を知り、再確認させられる良書でした。
 



2008年12月17日(水)23:38 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書籍 (短歌、漢詩) | 管理


(1/1ページ)