古今亭志ん朝 の 「二番煎じ」 |
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| 「二番煎じ」を聞きました。
とにかく調子が早く、登場人物が多いのに見事に演じ分けています。 以前噺家さんと話したとき、テレビカメラのように、身体の向きを変えたとたんに、その人になりきって、演じるようにしていると言っておられました。人数が多く、大店、職人、浪人風の人、最後には役人と、身分も全く違う人を次々に演じる様は、技術的にも素晴らしい物がありました。
おおよその話は、 火事は江戸の華で、特に真冬は大火事が耐えないので、町内で自身番を置き、商家のだんな衆などが交代で火の番として、夜巡回することになった。
寒いので手を抜きたくても、定町廻り同心の目が光っているので、しかたがない。人数も多いので、月番のだんなの発案で、二組に分かれ、交代で、一組は夜回り、一組は番小屋で待機していることに決めた。
最初の組が見回りに出ると、凍るような寒さ。みな手を出せ無いくらいの寒さ。宗助は提灯を股ぐらにはさんで歩くし、拍子木のだんなは両手を袂へ入れたまま打つので、全く音がしない。 鳴子係のだんなは前掛けに紐をぶら下げて、歩くたびに膝で蹴る横着ぶりだし、金棒持ちの辰つぁんに至っては、握ると冷たいから、紐を持ってずるずる引きずっている。
誰かが「火の用心」と大声で呼ばわらなくてはならないが、拍子木のだんなにやらせると低音で「ひィのよォじん」と、謡の調子になってしまうし、鳴子のだんなだと「チチチンツン、ひのよおおじいん、よっ」と新内。
辰つぁんは辰つぁんで、若いころ勘当されて吉原の火廻りをしたことを思い出し、 「ひのよおおじん、さっしゃりましょおお」と廓の金棒引き。
この三人の、謡い、新内、郭の金棒引きが素晴らしく、盛んな拍手です。声も良く、芸の深さを感じさせます。 一苦労して戻ってくると、やっと火にありつける。
一人が月番に、酒を持ってきたからみなさんで、と申し出た。 「ああたッ、ここをどこだと思ってるんです。自身番ですよ。役人に知れたら大変です」そう言いながら、 「全くこんな物を持ってきて、そこの土瓶のお茶を捨てて、水で洗って、これを入れなさい!」
「いったいどうするんです?」 「酒だから悪いので、煎じ薬のつもりならかまわないです。実は私も持ってきた。」 などと出鱈目になってきます。土瓶の茶を捨てて「薬」と言って、酒盛りが始まります。
そうなると肴が欲しいが、もう一人が、猪の肉を持ってきたという。それも、土鍋を背中に背負ってくるソツのなさ。番屋の扉につっかい棒をさせ、一同、先程の寒さなどどこへやら、のめや歌えのドンチャン騒ぎ。
「ここを開けろッ。番の者はおらんかッ」
慌てて土瓶と鍋を隠したが、全員酔いも醒めてビクビク。
「あー、今わしが『番』と申したら『しっ』と申したな。あれは何だ」
「へえ、寒いから、シ(火)をおこそうとしたんで」 「土瓶のようなものを隠したな」 「風邪よけに煎じ薬をひとつ」
役人は落ち着き払って、 「さようか。ならば、わしにも煎じ薬を一杯のませろ」
しかたなく、そうっと茶碗を差し出すとぐいっとのみ、 「このような物を飲んでおったのか!」と厳しい口調に、一同震え上がる。 そこで「ああ、よしよし。これはよい煎じ薬だ。」 一同一安心! この所を、一瞬厳しそうにしてから、あくまで建前を通して、お互い薬で通そうとする役人を少し強調して演じているところは、ややくどいかもしれませんが、良い演出と言えます。役人の言葉使いも、巧みでした。
「ところで、さっき鍋のようなものを」
「へえ、口直しに」 「ならば、その口直しを出せ、表を締めて、つっかい棒をしろ!」役人も同じようなことを言い出します
もう一杯もう一杯と、酒も肉もドンドン食べられてしまいます。 「これじゃあ、みんな飲まれちゃうよ。」 「もうありませんと、断ろうよ。」
「ええ、まことにすみませんが、煎じ薬はもうございません」
したたかな役人 「ないとあらばしかたがない。拙者一回りまわってくる。二番を煎じておけ」
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2006年6月26日(月)00:55 | トラックバック(0) | コメント(0) | 落語 | 管理
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