Cat Schroedinger の 部屋
 
                        雑談の部屋です。
 



2006年6月26日を表示

古今亭志ん朝 の 「二番煎じ」

「二番煎じ」を聞きました。

 とにかく調子が早く、登場人物が多いのに見事に演じ分けています。
 以前噺家さんと話したとき、テレビカメラのように、身体の向きを変えたとたんに、その人になりきって、演じるようにしていると言っておられました。人数が多く、大店、職人、浪人風の人、最後には役人と、身分も全く違う人を次々に演じる様は、技術的にも素晴らしい物がありました。

おおよその話は、 
 火事は江戸の華で、特に真冬は大火事が耐えないので、町内で自身番を置き、商家のだんな衆などが交代で火の番として、夜巡回することになった。

 寒いので手を抜きたくても、定町廻り同心の目が光っているので、しかたがない。人数も多いので、月番のだんなの発案で、二組に分かれ、交代で、一組は夜回り、一組は番小屋で待機していることに決めた。

 最初の組が見回りに出ると、凍るような寒さ。みな手を出せ無いくらいの寒さ。宗助は提灯を股ぐらにはさんで歩くし、拍子木のだんなは両手を袂へ入れたまま打つので、全く音がしない。
 
 鳴子係のだんなは前掛けに紐をぶら下げて、歩くたびに膝で蹴る横着ぶりだし、金棒持ちの辰つぁんに至っては、握ると冷たいから、紐を持ってずるずる引きずっている。

 誰かが「火の用心」と大声で呼ばわらなくてはならないが、拍子木のだんなにやらせると低音で「ひィのよォじん」と、謡の調子になってしまうし、鳴子のだんなだと「チチチンツン、ひのよおおじいん、よっ」と新内。

 辰つぁんは辰つぁんで、若いころ勘当されて吉原の火廻りをしたことを思い出し、
「ひのよおおじん、さっしゃりましょおお」と廓の金棒引き。

 この三人の、謡い、新内、郭の金棒引きが素晴らしく、盛んな拍手です。声も良く、芸の深さを感じさせます。
 
 一苦労して戻ってくると、やっと火にありつける。

 一人が月番に、酒を持ってきたからみなさんで、と申し出た。
「ああたッ、ここをどこだと思ってるんです。自身番ですよ。役人に知れたら大変です」そう言いながら、
「全くこんな物を持ってきて、そこの土瓶のお茶を捨てて、水で洗って、これを入れなさい!」

「いったいどうするんです?」
 
「酒だから悪いので、煎じ薬のつもりならかまわないです。実は私も持ってきた。」
 などと出鱈目になってきます。土瓶の茶を捨てて「薬」と言って、酒盛りが始まります。

 そうなると肴が欲しいが、もう一人が、猪の肉を持ってきたという。それも、土鍋を背中に背負ってくるソツのなさ。番屋の扉につっかい棒をさせ、一同、先程の寒さなどどこへやら、のめや歌えのドンチャン騒ぎ。

「ここを開けろッ。番の者はおらんかッ」

慌てて土瓶と鍋を隠したが、全員酔いも醒めてビクビク。

「あー、今わしが『番』と申したら『しっ』と申したな。あれは何だ」

「へえ、寒いから、シ(火)をおこそうとしたんで」
「土瓶のようなものを隠したな」
「風邪よけに煎じ薬をひとつ」

 役人は落ち着き払って、
「さようか。ならば、わしにも煎じ薬を一杯のませろ」

 しかたなく、そうっと茶碗を差し出すとぐいっとのみ、
「このような物を飲んでおったのか!」と厳しい口調に、一同震え上がる。
 そこで「ああ、よしよし。これはよい煎じ薬だ。」
 一同一安心!
この所を、一瞬厳しそうにしてから、あくまで建前を通して、お互い薬で通そうとする役人を少し強調して演じているところは、ややくどいかもしれませんが、良い演出と言えます。役人の言葉使いも、巧みでした。

「ところで、さっき鍋のようなものを」

「へえ、口直しに」
「ならば、その口直しを出せ、表を締めて、つっかい棒をしろ!」役人も同じようなことを言い出します

もう一杯もう一杯と、酒も肉もドンドン食べられてしまいます。
「これじゃあ、みんな飲まれちゃうよ。」
「もうありませんと、断ろうよ。」

「ええ、まことにすみませんが、煎じ薬はもうございません」

したたかな役人
「ないとあらばしかたがない。拙者一回りまわってくる。二番を煎じておけ」



2006年6月26日(月)00:55 | トラックバック(0) | コメント(0) | 落語 | 管理


(1/1ページ)